SageMaker Unified Studio の位置付けと SageMaker AI Studio との使い分け
next-generation SageMaker のリブランドで再編された Unified Studio が束ねるワークロード範囲、Domain / Project という管理単位の設計、SageMaker AI Studio との使い分け判断を整理します。
目次
本記事では、next-generation SageMaker の総称ブランドに位置付けられる Amazon SageMaker Unified Studio と、既存の AWS データ基盤との使い分けを整理します。リブランドで再編された名称体系、統合ワークロードの範囲、Domain / Project の管理単位、SageMaker AI Studio との使い分け指針、料金と移行パスを順に取り上げます。各論点を把握したうえで、Unified Studio への集約が自チームのデータ共有要件と合致するかを判断しましょう。
next-generation SageMaker とは何か ── リブランドと名称の整理
AWS は 2024 年 12 月 3 日に「next-generation Amazon SageMaker」を発表しました。これは単なる機能追加ではなく、サービス名称と製品構成を大きく再編するリブランドです。
まず名称の整理から始めます。旧来の「Amazon SageMaker」という名称は、2024 年 12 月 3 日以降は 総称ブランド として再定義されました。公式ドキュメントは next-generation SageMaker を Unified Studio と Data and AI governance (= SageMaker Catalog) の 2 主要コンポーネント、および基盤の open lakehouse architecture で構成すると整理しています。本記事ではブランド名の対応を以下の表で整理します。
- Amazon SageMaker AI ── 旧 SageMaker の ML 開発機能を継承した製品。その IDE が SageMaker Studio (旧称と区別のため「SageMaker AI Studio」と表記することが多い)
- Amazon SageMaker Unified Studio ── 新設の統合 IDE
- Amazon SageMaker Lakehouse ── 新設のデータ統合基盤
- Amazon SageMaker Catalog ── Amazon DataZone を基盤として構築されたデータカタログ・ガバナンス機能 (DataZone は独立サービスとして並列存続)
| 旧名 (〜2024-12-02) | 新名 (2024-12-03〜) |
|---|---|
| Amazon SageMaker Studio | SageMaker AI / SageMaker Studio (AI 内の IDE) |
| Amazon SageMaker (Studio 以外) | Amazon SageMaker AI |
| (なし) | Amazon SageMaker (= 総称ブランド) |
| (なし) | Amazon SageMaker Unified Studio |
| (なし) | Amazon SageMaker Lakehouse |
| (なし) | Amazon SageMaker Catalog (Amazon DataZone を基盤に構築) |
旧 Studio には「Studio Classic」という名称も存在します。これは 2023 年 11 月 30 日に改称されたもので、ベースとなる JupyterLab 3 のメンテナンスは 2024 年 5 月 15 日に終了しています。今後の新機能開発は SageMaker AI Studio / Unified Studio に集中します。移行先としては SageMaker AI Studio (新 SageMaker Studio) が現実的な選択肢で、その上で Unified Studio に集約するかどうかを要件に応じて判断する流れになります。
「AI Studio」という単独の製品名は公式に存在しない点に注意が必要です。本記事でも「SageMaker AI Studio」と表記します。
Unified Studio が束ねるもの ── SQL・データ処理・ML・GenAI・ガバナンスの統合範囲
AWS の公式定義によると、Unified Studio は「データ、アナリティクス、AI、ML の各 AWS サービスをひとつの開発体験に集約した統合 IDE」です。
a unified development experience that brings together AWS data, analytics, AI, and ML services. It provides a place to build, deploy, execute, and monitor workflows from a single interface.
2024 年 12 月 3 日にプレビューを開始し、2025 年 3 月 13 日に一般提供 (GA) となり、現在は東京リージョン (ap-northeast-1) を含む 15 リージョンで利用できます。
Unified Studio が内部で統合する AWS サービスは、EMR / Glue / Athena / Redshift / MWAA / Amazon Bedrock / SageMaker AI と多岐にわたります。既存の Athena / Redshift は SQL アナリティクス領域、Glue は ETL とガバナンス領域、SageMaker AI は ML / GenAI 領域として Unified Studio に統合されています。機能領域ごとに整理します。
SQL アナリティクス
Athena と Redshift をエンジンとして選択できます。複数の SQL セルをひとつのノートブック形式で管理する Querybook や、Amazon Q Developer による自然言語から SQL への変換も利用できます。
データ処理 (ETL)
Spark / Trino / EMR / Glue / Athena に接続でき、コードなしで ETL を構築できる Visual ETL を備えます。2026 年 3 月 9 日には Visual ETL のデータプレビュー機能 v2.0 が提供され、即時プレビューが可能になりました。
同年 3 月 3 日には AWS Glue 5.1 (Spark 3.5.6 / Python 3.11 / Apache Iceberg 1.10.0) が統合されています。
Serverless Notebooks (SageMaker Data Agent)
Athena for Spark を基盤とし、SQL / Python / 自然言語を混在させて記述できます。データエージェントが自然言語の入力から SQL やコードを生成します。東京リージョンでは 2026 年 4 月 1 日から JP-CRIS (Japan Cross-Region Inference) に対応し、推論処理が日本地域内で完結するようになっています。
ML 開発
SageMaker AI の機能の大部分を Unified Studio 内で利用できます。JupyterLab (SageMaker Distribution) と Code Editor (VS Code OSS ベース) の両方が使えます。2025 年 10 月 11 日には VS Code のリモート接続、2026 年 3 月 25 日には Cursor のリモート接続にも対応しました。
ただし、RStudio・Canvas・Feature Store・共有スペースでのリアルタイム共同作業は Unified Studio ではなく SageMaker AI Studio が推奨される点は後述します。
GenAI アプリ開発
Amazon Bedrock を統合しており、チャットエージェントアプリや Flow アプリをノーコード / ローコードで構築できます。Knowledge Bases / Guardrails / Agents / Flows / Evaluation / Prompts / Playground を利用できます。
スタンドアロンの Amazon Bedrock との使い分けとして、Unified Studio は「ガバナンスを伴ったローコード / ノーコード環境」として位置付けられます。最新の Agents / Flow / Guardrail の拡張機能や Bedrock SDK を直接使いたい場合は、スタンドアロンの Bedrock が推奨されます。
ワークフロー (Visual Workflows)
MWAA (Managed Workflows for Apache Airflow) を基盤とした Visual Workflows を内包し、約 200 のオペレーターを利用できます。MWAA Serverless への対応も進んでおり、IAM ドメインでは 2025 年 11 月 21 日、IdC ドメインでは 2026 年 4 月 7 日に対応しています。
ガバナンス (SageMaker Catalog)
Amazon DataZone を基盤として構築されており、DataZone と同等のガバナンス機能を SageMaker Unified Studio の統合 UI から提供します。Amazon DataZone は独立サービスとして並列存続しており、既存の DataZone ドメインは SageMaker ドメインへアップグレードしなくても従来どおり継続利用できます。提供機能は、アセットの publish / subscribe、ビジネス用語集、メタデータフォーム、データリネージュ、データ品質スコアです。
2025 年 10 月 12 日から Glue Catalog からのリアルタイムメタデータ取り込みに対応しています。
2026 年 3 月 3 日からは Collibra との双方向メタデータ同期、および Atlan・Alation への一方向メタデータ取り込みに対応しました。
Amazon Q Developer
全ユーザーに Free Tier が提供されます。2025 年 9 月 8 日からは MCP サーバー統合により、プロジェクト内のデータ・コンピュート・コードを認識した状態での支援が可能になっています。
Domain・Project・Blueprint ── Unified Studio の管理単位を理解する
Unified Studio の管理構造は、大きく 3 層で構成されます。
Domain は組織単位です。組織全体をひとつの Domain で運用することも、部門ごとに複数の Domain を持つこともできます。Domain の下には Domain Unit (ビジネスユニット・チーム単位) を設けられます。
Project は作業整理の単位です。ビジネスコンテキストと協業の境界、パーミッション境界をひとつの単位として扱います。チームが共同で取り組む分析や ML 開発のプロジェクトが、この Project 単位で管理されます。
Project を作成する際に選べるテンプレートが Project Profile で、以下の 4 種類があります。
- All capabilities (全機能)
- SQL analytics (SQL アナリティクス特化)
- GenAI app development (GenAI アプリ開発特化)
- Custom (カスタム)
Blueprint は CloudFormation で定義されたツール・サービスの組み合わせ定義です。Project Profile の実体として機能します。
Space はユーザー個人のワークスペースです。1 アカウントあたり最大 6,000 の同時 Space が利用でき、2025 年 5 月 30 日の拡張で上限が引き上げられました。
SageMaker Lakehouse と Lake Formation の役割
SageMaker Lakehouse は、Glue Data Catalog に Apache Iceberg REST API インターフェースを追加した基盤です。S3 上のデータレイク、Redshift、外部ソースをまとめて扱えます。Lakehouse 自体の追加料金はなく、基盤となる各サービスの料金が発生します。
クエリ実行時の細粒度アクセス制御は Lake Formation が担います。Athena for Spark のテーブル制御も 2025 年 11 月 21 日から Lake Formation の管理下に置けるようになっています。
Zero-ETL 統合 (Salesforce / SAP / 運用 DB → Lakehouse) に対応しており、既存データをコピーせずに Lakehouse に取り込めます。フェデレーテッドクエリ (DynamoDB / BigQuery / Snowflake) も利用でき、既存データソースを移行せずにそのまま参照できます。
Unified Studio を選ぶ前に確認したいこと ── 移行・名称・料金の未確定事項
Unified Studio の導入を検討する前に、いくつかの点を確認する必要があります。
Studio Classic からの移行パス
Studio Classic から Unified Studio への直接移行ガイドは、本記事執筆時点 (2026-05-06) の公式ドキュメントで確認できていません。まず SageMaker AI Studio への移行を経るのか、直接 Unified Studio に移行できるのかは公式ドキュメントを個別に確認してください。
一方、DataZone から SageMaker ドメインへのアップグレードパスは 2025 年 6 月 2 日から提供されています。既存の DataZone 環境で構築したメタデータフォーム・用語集・サブスクリプションは継続利用できます。
料金モデルの全体像
Unified Studio の IDE 機能・プロジェクト管理・ドメイン管理自体に追加料金はありません。ただし、内部で呼び出す各 AWS サービス (Athena / Redshift / EMR / Glue / Bedrock / SageMaker AI) の従量課金が積算されます。
SageMaker Catalog の料金は DataZone と同一の体系です。以下の単価は AWS DataZone 料金ページから取得した値です。東京リージョン (ap-northeast-1) 個別の値かどうかは公式料金ページで再確認してください。
| 項目 | 単価 | 無料枠 |
|---|---|---|
| リクエスト | $10 / 100K リクエスト | 4,000 リクエスト / 月 |
| メタデータストレージ | $0.4 / GB | 20 MB / 月 |
| コンピュート | $1.776 / unit | 0.2 units / 月 |
| AI レコメンデーション (入力) | $0.015 / 1K トークン | — |
| AI レコメンデーション (出力) | $0.075 / 1K トークン | — |
実際の見積もりは AWS DataZone 料金ページ で最新値を確認してください。
Unified Studio と SageMaker AI Studio の使い分け ── 公式指針と実務判断
AWS が公式に示している使い分けの指針をまず確認したうえで、実務上の判断材料を整理します。
AWS 公式の使い分け指針
Unified Studio を選ぶ場合: データ探索・ETL・SQL / ML・GenAI 開発・ガバナンスを横断して統合・共有したいとき。
SageMaker AI Studio を選ぶ場合: ML の準備・構築・訓練・デプロイ・管理に専念したいとき。あるいは RStudio・Canvas・Feature Store・共有スペースでのリアルタイム共同作業が必要なとき。
両者は強制的にどちらかに移行するものではなく、併存して利用できます。
判断軸の整理
使い分けの根本的な問いは「チーム横断でデータとガバナンスを単一 IDE の境界内で共有したいか」に集約されます。
データエンジニア・アナリティクスエンジニア・ML エンジニアが同じ Project に属し、異なるツールの成果物を統一されたガバナンス管理下で共有したいケースがあります。その場合、Unified Studio の Domain / Project 構造はその要件に直接対応します。
一方、ML チームが独立してパイプラインを管理しており、Feature Store や Canvas を中心に運用している場合は、SageMaker AI Studio をそのまま継続する方が摩擦が少なくなります。
以下の比較表に判断の目安をまとめます。
| 判断軸 | Unified Studio | SageMaker AI Studio |
|---|---|---|
| 対象ワークロード | SQL + ETL + ML + GenAI + ガバナンスを横断 | ML 専用 (準備〜デプロイ〜管理) |
| チーム構成 | データ・ML・GenAI の複数職種が協業 | ML チームが独立運用 |
| Feature Store | 非推奨 | 推奨 |
| RStudio | 非推奨 | 推奨 |
| Canvas | 非推奨 | 推奨 |
| リアルタイム共同作業 (Shared Spaces) | 非推奨 | 推奨 |
| GenAI アプリをローコードで構築 | 推奨 | 非推奨 |
| データガバナンス (Catalog 統合) | 推奨 | 非推奨 |
| Visual ETL / Airflow | 推奨 | — |
Google Cloud との対比
参考として、Google Cloud のアーキテクチャと比べると構造上の違いが明確になります。Google Cloud では Vertex AI Studio (GenAI) と BigQuery Studio (SQL / 分析) が 別々の IDE として分離しています。AWS の Unified Studio は SQL・ML・GenAI を 単一 IDE に統合している点が設計上の大きな差異です。
データカタログ・ガバナンスの役割では、Google Cloud の Dataplex と SageMaker Catalog (旧 DataZone) が近い位置付けになります。
まとめ ── 統合 IDE を選ぶ設計判断の核心
SageMaker Unified Studio は「データ探索・ETL・SQL / ML・GenAI 開発・ガバナンス」を Domain / Project という単一の境界で束ねるワークロード横断統合の設計選択です。
既存の Glue / Athena / Redshift / SageMaker AI Studio を継続するか Unified Studio に集約するかの判断軸は、チーム横断でデータとガバナンスを単一 IDE の境界内で共有したいかどうか に尽きます。
複数職種が同じデータ基盤上で協業し、SQL・ETL・ML・GenAI の成果物を統一されたガバナンス管理下に置きたい場合、Unified Studio の Domain / Project 構造はその要件に直接対応します。
一方、ML チームが Feature Store・Canvas・RStudio・リアルタイム共同作業を中心に独立運用している場合は、SageMaker AI Studio を継続する方が現実的です。両者は強制的な移行関係になく、要件に応じて使い分けられます。
Unified Studio 自体の IDE 機能に追加料金はありませんが、内部サービスの従量課金が積算されます。SageMaker Catalog の料金は東京リージョンの値を公式料金ページで個別に確認してください。
参考文献
- next-generation Amazon SageMaker ── 概要
- Amazon SageMaker Unified Studio ── ユーザーガイド
- Unified Studio ── サポートリージョン一覧
- Unified Studio ── 概念 (Domain / Project / Blueprint)
- Project Profiles
- Bedrock in Unified Studio
- SageMaker Lakehouse ── アーキテクチャ
- DataZone → SageMaker ドメインへのアップグレード
- Unified Studio ── リリースノート
- Amazon DataZone 料金ページ (SageMaker Catalog の料金体系と同一)
- SageMaker Lakehouse 料金
- Amazon SageMaker Unified Studio ── 製品ページ
- Unified Studio GA 発表ブログ
- next-generation SageMaker 発表ブログ (2024-12-03)
- Studio Classic 改称に関するドキュメント